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クリスマスSS [SS]

クリスマスですね。
少年は神~シリーズでちょろっと
SS書いたのでよかったら読んで下さい。

「聖なる日に」

 十二月も終わろうとしているこの時期、樹里は
毎年思うことがある。
「クリスマス……なんだよなぁ」
 馬から降りて木々を見上げる樹里に気づき、ア
ーサーとランスロット、サンとクロが振り返る。
 今日は天気がよかったのでアーサー、ランスロ
ット、サン、神獣のクロと森に遠乗りに来ていた。
今年は暖冬なのか、気温は低いものの、キャメロ
ットにまだ雪は降っていない。モルガンとの闘い
を終え、樹里はアーサーと平和な日々を過ごして
いた。今日は慣れない馬に乗り、森を散策してい
る。アーサーとランスロットはついでに狩りをす
ると言って、馬上から弓矢を構えている。サンは
神獣のクロに乗って樹里の後からついてくる。
「何でこんな場所で立ち止まっているんだ。獲物
の気配はないぞ」
 白馬に乗ったアーサーが、不審そうな眼差しで
樹里を見下ろす。金色の髪に凛々しい顔立ちのア
ーサーは、金糸の入ったマント付きの外套を着込
んでいる。
「いや、この辺の木さ。もみの木なんだよ!」
 樹里は馬から降りないアーサーとランスロット
に熱く語った。
「もみの木……ですか? その木にそのような名
前がついておりましたか?」
 ランスロットは首をかしげて言う。ランスロッ
トはウエーブがかったブルネットの長髪に、端正
な顔立ちの青年で、この国一番の騎士だ。
 樹里の目の前にある全長二メートルほどの木―
――マツ科の針葉樹、いわゆるもみの木だ。クリス
マスになると登場する、電飾やオーナメントを飾
りつけする木なのだ。イングランドと似通ってい
るこの世界だからもみの木があっても不思議はな
いのだが、問題はクリスマスがこの世界にはない
ことだ。
「なぁ、クリスマスってないよなぁ、ここ」
 樹里は白い息を吐いてアーサーに尋ねた。
「クリスマス……とは何だ?」
 案の定アーサーの目が丸くなっている。
「キリストの誕生日を祝う祭りだよ」
 そこから説明しなければ駄目かと樹里はがっかり
した。やはりクリスマスはない。去年も一昨年もこ
の世界で十二月を過ごしたが、誰もケーキも七面鳥
も焼いてくれなかった。
「キリスト……とはどのような方でしょうか? 誕
生日を祝うほどの方です。よほど権威のある方なの
でしょうね」
 ランスロットは興味ありげに聞く。
「権威……っつーか、キリストは神の子って呼ばれ
てて」
「何だ、樹里様のことですか」
 横から合点がいったようにサンが頷く。サンは十
一歳の少年で樹里の従者をしている。
「ちげーって! 俺なんかと同列にしちゃ駄目だか
ら!」
 変な誤解を生みそうで慌てて訂正したが、どうや
らこの世界ではキリストはまだ生まれていないらし
い。この先現れるのか、それともキリストの存在し
ない世界なのかは分からない。
「よく分からんが、何で知りもしない奴の誕生を祝
わねばならないのだ? そもそもそいつとその木に
何の関係がある?」
 アーサーはますます不審そうに樹里を見やる。長
い時を経て、キリストの誕生日を祝う祭りが商業ベ
ースに乗せられて様変わりしたことなどどうやって
説明すればいいのだろう。
「説明がめんどいからはしょるけど、十二月二十五
日にはケーキとチキンを食べる習慣が俺のいた国で
はあるんだよ。そんでこのもみの木にぴかぴか光る
やつとかクリスマスっぽい飾りつけをするんだ」
 樹里がもみの木を指差して言うと、アーサーがラ
ンスロットと顔を見合わせる。サンはケーキとチキ
ンと聞いて「いいですねぇ」と目を輝かせている。
「でさぁ、その日はいい子にしてるとサンタがプレ
ゼントをくれることになってて」
 嬉々として樹里はクリスマスがいかに楽しいかを
話したが、アーサーとランスロットにはあまり伝わ
っていないようだった。サンに至っては「僕がプレ
ゼントをあげるのですか?」と怯えている。
「お前の話はまったく分からない」
 アーサーはため息を漏らしつつ、白馬から降りた。
そしてすたすたと樹里の横に来て、もみの木の枝を
折ろうとした。
「ストップ、ストップ! 何しようとしてんだよ!?」
「この木が欲しいんじゃないのか?」
 怪力で枝を折ろうとするアーサーを必死に止め、
樹里はそうじゃないと首を振った。もみの木の枝だ
け持って帰っても意味がない。
「使う時は丸ごとだよ!」
 樹里が叫ぶとアーサーとランスロットが同時に化
け物にでも遭ったみたいな顔をした。それほど訳が
分からなかったらしい。
「この何の変哲もない、どこにでもある木を、丸ご
と欲しいというのか? 花も咲いていないし、食べ
られる実もなってないんだぞ? 宝石や上等な布に
まったく興味を示さないくせに、これを丸ごと?」
 アーサーはあんぐり口を開け、恐ろしげに身震い
した。そんなに理解不能だったか。生まれた時から
当たり前のようにクリスマスツリーを見ていたので、
そこまで驚かれるとは思わなかった。
「もういいよ。ちょっとクリスマス気分を味わいた
かっただけだし」
 クリスマスの説明に疲れて、樹里は仏頂面で馬に
乗り込んだ。樹里が動き出すとアーサーとランスロ
ットも安堵したように移動した。
「樹里様、その日は豪華な食事にすればよいのです
か?」
 サンは樹里の従者なので、気になったようだ。樹
里が「ケーキも頼む」と言うと、お任せ下さいと小
さな胸を叩いた。



 クリスマス当日、樹里が朝目覚めると、素晴らし
い贈り物が届いていた。
「うっわー! どうしたんだ、これ!」
 まだベッドで眠っているアーサーを揺り起こして、
樹里は甲高い声を上げた。寝室にもみの木が置いて
あったのだ。一週間前に狩りに行った時には理解不
能という顔つきだったくせに、いつの間に用意して
いたのだ。
「昨夜運ばせたんだ。お前が欲しがるから……」
 アーサーは眠いらしくあくびを連発しながら寝返
りを打つ。
「うわー、ありがとう!」
 もみの木はいびつな土器に入れられているものの、
部屋の中で光り輝いている。けっこう大きなもみの
木を持ってきてくれたようだ。三メートル近くある。
「やっぱり意味が分からん。何で部屋の中に木があ
るんだ……」
 アーサーは寝台に肘を突きながら、もみの木を見
上げる。
「アーサー。それでこの木、寝室じゃなくて食堂に
置いてほしいんだけど」
 身支度を整えながら樹里が言うと、アーサーが顔
を引き攣らせた。
「食堂……? 皆が食事をするあの場に……?」
「頼んだよ! 俺は飾りつけを探してくるから!」
 フード付きのマントを被り、樹里は寝室を飛び出
した。朝食を運んできたサンからパンを奪い、その
まま廊下に出る。石造りの廊下を走り、城の地下へ
急いだ。
「マーリン! ツリーにつけられるようなものくれ!」
 マーリンの部屋に駆け込んで大声で言うと、読書
中だったマーリンにぎろりと睨まれた。マーリンは
魔術師で、彫りの深い顔立ちに長い髪を束ね、灰色
のマントを羽織っている。
「ノックもなしに、無作法な奴だ。回れ右してとっ
とと帰れ」
 この国が平和になっても、マーリンの樹里に対す
る態度に揺らぎはない。
「そう言わずに、協力してくれよ! アーサーがも
みの木を用意してくれたから、あとは飾りつけしな
いと! マーリンならクリスマスの何たるかを知っ
てるだろ!?」
 マーリンは樹里を追って日本で暮らしていたこと
がある。きっとクリスマスがどんなものか分かって
いるはずだ。
「街中で浮かれて馬鹿騒ぎする冬の祭りだろ。私に
はどうでもいい。……おい、何をしている」
 戸棚を漁り始めた樹里に、マーリンが眉根を寄せ
る。
 マーリンの部屋の戸棚には木で作られた小さな人
形や模型があるのだ。
「や、この辺何かそれっぽいかなって。ちょっと借
りるよ」
 傍に置いてあった麻袋に、適当に掴んだものを入
れていく。藁人形みたいなものもあるが、ないより
マシだろうと拝借した。
「それは呪術で使った奴だが……まぁいいだろう」
 マーリンの恐ろしい呟きが聞こえてきて、慌てて
掴んだ藁人形を戻しておいた。
 続けてグィネヴィアの部屋に行き、仏頂面で出て
きたグィネヴィアからレースでできたショールを借
りた。
 最後は厨房に行き、馴染みの料理長にジンジャー
ブレッドマンの形を説明し、急ぎでクッキーを焼い
てもらった。ジンジャーブレッドマンにはあらかじ
め丈夫な糸を通しておく。
 すべての材料が揃うと、樹里は食堂に急いだ。さ
すがアーサー、仕事が早い。頼んだもみの木を食堂
に移動してくれている。
「樹里様……、それは?」
 椅子に乗ってツリーの飾りつけをしていると、不
可解そうな表情のランスロットに声をかけられた。
もみの木にショールをくくりつけたり、木の人形を
乗せたりしているのが奇妙に映ったらしい。
「これがクリスマスだよ!」
 樹里が笑顔で答えると、ちょうどやってきた宰相
のダンがもみの木にびっくりして固まる。
「食堂に何故木が……? しかも、それは戦術用の
駒では……?」
 ダンは白髪の老人で、もっと時間に余裕があれば
サンタクロースの役を頼みたい逸材だった。
「今日はチキンとケーキだぞ。楽しみにしてくれよ
な」
 木の人形をツリーにくくりつけて、樹里は笑顔で
言った。料理長にクリスマスメニューを頼んでおい
て本当に良かった。こんなにクリスマスっぽくなる
なんて思わなかった。
「できたぞ。本当はてっぺんに星をつけたいんだけ
どなぁ」
 高い場所の飾りつけはランスロットに頼み、樹里
は完成したツリーを見上げた。寄せ集めだが、それ
っぽく見える。
「面白いことやってるって聞きましたけど」
 騎士のマーハウスやユーウエィンが噂を聞きつけ
てツリーを見に来た。電気が通っていれば、電飾の
飾りつけをしたかった。こんなに大きなもみの木だ。
きっと映えたに違いない。
「わ、私のショール!」
 侍女と一緒にやってきたグィネヴィアが、もみの
木にぐるぐる巻きにされたショールを見て眩暈を起
こす。「姫様、しっかり!」と侍女が支えた。
「何だ、何だ」
「どうして食堂に木が?」
 人がどんどん増えてきて、ツリーの周りに集まる。
一様に奇妙な顔つきなので、楽しんでいるのは樹里
だけのようだ。
「おいこら、クロ、それは食べちゃ駄目だ!」
 クロは目敏くツリーにクッキーが飾られているの
に気づき、前脚を伸ばして食いつこうとしている。
制止が遅かったのでジンジャーブレッドマンのいく
つかは、ただの顔だけになってしまった。
「樹里様、ケーキ焼けましたよ」
 サンが焼きたてのケーキを持ってきた。形はドー
ム型で、中は小麦に干しブドウを混ぜて焼いている。
食感はパンに近い。
「よし、皆で食おうぜ!」
 樹里が拳を上げ、サンがケーキを切り分けていく
ことになった。人がどんどん集まってくるので、取
り分が少なくなっていく。
「何だ、この騒ぎは」
 ようやくアーサーもやってきて、飾りつけされた
ツリーを見て絶句した。アーサーの美的感覚とは合
わなかったらしい。
 多少おかしなことにはなっているが、いい感じだ。
樹里は切り分けたケーキをフォークですくい、アー
サーに差し出した。
「……平和だな」
 一口齧ってアーサーがしみじみと呟いた。
「俺もそう思う」
 焼きたてのケーキを頬張りながら、樹里もツリー
を見上げた。ケーキのおこぼれにあずかった皆もワ
イワイと楽しげにしている。
「これがクリスマスだよ」
 樹里がにっこりと笑って言うと、やっぱり分から
んとアーサーは首をかしげた。

               MerryChristmas!



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