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バレンタインデーSS [SS]

2019年ですね。
更新しようと思いつつ2月になってしまいました。
今年もよろしくお願いします。
年賀状くれた皆さま、ありがとうございます。
ちゃんと届いております。嬉しい!

CRAFT79号も発売されております。
梨先生の描くミケはイケメン最高です。
どうぞよろしくお願いします。

そして。
バレンタインが近いということで
眷愛隷属の有生と慶次のSSなど
書いてみました。
読んでね~。


「ハッピーバレンタイン」


 二月十四日、山科慶次は朝から参道の掃き掃除を
していた。空は真っ白で今にも雪が降りそうな寒さ
だ。
「はー。慶ちゃん、もう戻ろうよ。どうせ掃除して
も、雪が降って意味なくなる」
 慶次が竹ぼうきで必死に参道の落ち葉をかき集め
ていると、横にいる弐式有生が、面倒そうに言った。
有生は茶色い髪にすらりとした肢体、酷薄そうな笑
みを浮かべている青年だ。慶次は真面目に掃除して
いるのに、有生はさっきから座り込んでスマホでゲ
ームをしている。参道の掃除は二人に任されたのに、
これじゃ不平等だ。
「雪が降る前に、落ち葉を集めなきゃだろ。有生、
さぼるんじゃない! 大体お前んちだろーが、ここ
は」
 竹ぼうきの柄の部分で尻をつんつんされて、慶次
は腹を立てて怒鳴った。慶次が掃除している参道は、
弐式家の所有する敷地なのだ。そもそも慶次たちが
何故掃除をしているかというと、母屋で取っ組み合
いの喧嘩をしたからだ。弐式家のご意見番である巫
女様に叱られて、参道掃除の罰を言い渡された。
「だから、適当にやろうって言ってるんじゃない。
そもそもこんなの、鳥居の上にいる天狗に頼んで、
突風で落ち葉を参道の外に出してもらえばいんじゃ
ね?」
 有生は竹ぼうきで鳥居を指す。弐式家は特殊な一
族の本家だ。討魔師という、眷属を相棒にして、怪
異や悪霊を祓う仕事をしている。本家である弐式家
は常に天狗が守っていて、今も鳥居の上から掃除を
する慶次と有生を笑って見下ろしている。
「それは変だろ。右から左へ移動させているだけじ
ゃないか。何でお前は、さぼることばっか考えてん
だ」
 集めた落ち葉をビニール袋に詰めながら、慶次は
叱りつけた。
 有生とは仕事でパートナーを務めている。小さい
頃から憧れの討魔師になれた慶次だが、つけてもら
えた眷属が子狸で、霊力も能力も未熟だ。一方有生
は性格が悪くてたいていの人と合わないが、霊力も
能力も一流ときている。
「慶ちゃんが真面目過ぎるんだよなぁ。真面目は美
徳じゃないでしょ。大体……あ」
 有生が鳥居を振り返り、眉根を寄せる。何かと思
って鳥居を見ると、車が近づいてくるのが分かった。
客が来る予定でもあったのか。有生と脇に避けると、
白いセダンが参道をゆっくりと走ってきた。
 車は慶次と有生の前を通り、少し先で停まる。車
から降りてきた男を見て、有生が肩をすくめた。
「うわータスマニアデビルじゃん」
「あっ、柚!」
 車を運転していたのは伊勢谷柚だった。慶次より二
つ年上で、以前は討魔師としてこの弐式家に住み込ん
でいた。眷属をはく奪されてから弐式家を出て行って
しまったのだが、今日は遊びに来たらしい。相変わら
ず目鼻立ちのはっきりした綺麗な青年で、今日は真っ
白なコートを着ていた。
「慶次、久しぶり」
 にっこり笑って柚は慶次の肩にぽんと手を置く。
「まだこの性悪狐とつるんでるの? ホント、同情す
る」
 柚は笑みを浮かべたまま、慶次の隣にいる有生に目
を細める。
「ここ一応俺んちですけど。人んち来て、その言い草。
誰に育てられたんだろうねぇ。あー顔が見てみたい」
 有生の長い手が慶次の肩にかかり、有生と柚が睨み
合う。ばちばちと火花が散った気がして、慶次は背筋
を震わせた。この二人は仲が悪い。有生に悪態をつけ
る人が少ないので、慶次としては柚を応援している。
「柚、耀司さんに会いに来たのか?」
 慶次は首をかしげて聞いた。柚と有生の兄である耀
司は恋人同士だ。遠距離恋愛になってしまっているが、
時々逢瀬を愉しんでいるらしい。
「ああ。今日はバレンタインデーだろ。耀司様に手作
りのチョコを作ろうと思って、材料を持ってきたんだ。
母屋の台所を借りようと思ってるんだけど、慶次も一
緒に作るか?」
 柚は車の後部席に置かれた紙袋を指差す。
「バレンタイン……? や、俺は別に。俺はもらうほ
うだろ?」
 今日はバレンタインデーだったのか。柚に言われて
初めて気づいたが、そもそもバレンタインデーは女の
子が好きな男の子に告白する日だ。自分は関係ないと
首を振った。
「そうか? そーかー。そうだよな、慶次はあげるよ
うな相手いないもんなー」
 柚が唇の端を吊り上げて、さも愉快と言わんばかり
に有生を見る。何故有生に当てつけるように言うのか
分からないが、有生がカチンときているのはくっつい
ているから分かった。
「慶ちゃん、俺、慶ちゃんから欲しい」
 有生が額を擦りつけてきて言う。頭をぐりぐりされ
て、痛い。
「いてーよ、だから何で俺が。俺、女じゃねーし」
 やけにしつこく有生が迫ってくるが、何故自分がチ
ョコレートなど作らねばならないのだろう。そう思っ
ていると、腹からぽんと子狸が飛び出てきた。慶次の
相棒、眷属の子狸だ。
『ご主人たまー! チョコを作りましょう!』
 子狸はハイテンションで踊りながら言う。
「なんで」
『お世話になった方にあげるんですぅ。義理チョコと
いう習慣があるじゃないですかぁ!』
 子狸は頬を赤くして、飛び跳ねている。なるほど、
お世話になった人に義理チョコをあげるのは、男でも
いいかもしれない。
「柚、やっぱ俺も作るよ」
 車に戻りかけていた柚に、慶次は言った。柚はもう
討魔師ではないので、子狸は視えないのだ。
「そうか。じゃあ母屋で待ってる」
 柚は笑顔になって、車に乗り込んだ。慶次は急いで
残りの落ち葉をかき集めた。何故か有生が積極的に手
伝ってくれる。最初からそうしてくれたら、もっと早
く終わったのに。
 変な奴だなぁと思いつつ、慶次は参道の掃除を終え
た。



 母屋の台所に行くと、柚がエプロンをつけて準備を
始めていた。紙袋の中には大量の板チョコが入ってい
て、ラッピング用の袋やチョコに入れるらしきトッピ
ングが台に置かれていた。
「いっぱいあるから、慶次は慶次で作ってくれ。好き
なの使っていいよ」
 チョコレートを溶かしながら柚が言う。
「俺……料理からきしなんだけど、どうすりゃいい
の?」
 好きなの使ってと言われても、右も左も分からない。
慶次の家ではこういうのはもっぱら兄の仕事だ。
「何を作るかによるな。スマホで調べて」
 柚は教えてくれる気はないようだ。材料をもらえる
だけでも感謝しなければとスマホを使って作り方を調
べた。トリュフは美味しそうだが、素人の慶次にはも
っと簡単なものがいい。チョコを溶かして型にはめて
冷やすだけの楽なものにした。
「えっと何人分、作ろう。柚は耀司さんだけなのか?」
 作るにしても人数を計算しなければ。慶次が悩んで
いると、柚はにっこりと微笑んだ。
「もちろん、他に誰がいる? 本当は俺自身にチョコ
をかけて、俺を食べて下さいっていうのとか、耀司様
の一物にチョコをかけて俺が美味しくいただくのとか
やりたかったんだけど」
 慶次は板チョコを叩き割った。
「なっ、なっ、んなーっ」
 柚は時々とんでもない発言をする。慶次は真っ赤に
なって、手をチョコまみれにした。
「耀司様はそういうの好きじゃないんだよね。食べ物
を粗末にするなとか真顔で言ってくるし」
 残念そうに柚が呟く。耀司がまともでよかった。聞
いているこちらが嫌な汗を掻いてくる。ふと柚の手元
に目を向けた慶次は、粉の入った小瓶に釘付けになっ
た。トッピングする材料にしては、何だか違和感があ
る。
「ゆ、柚、これ何?」
 今まさにチョコレートに入れようとしていた小瓶を
掴むと、柚が無言になる。
 柚は耀司の飲み物に睡眠導入剤を入れようとした過
去がある。
「柚、これ何!?」
 慶次が冷や汗を垂らしつつ聞くと、柚が天使のよう
な微笑みを浮かべた。
「ちょっと元気になる薬だよ。いわゆる催淫剤的な。
とある筋から手に入れて」
「駄目だろ!!」
 慶次は真っ青になって小瓶を子狸に手渡した。
「子狸、処分して」
『了解ですぅ』
 子狸は小瓶を抱えてどこかに飛んでいく。柚がちっ、
と舌打ちした。
 台所の空気は微妙になったが、慶次は型を使って溶
かしたチョコレートを流し込んだ。全部で五十個くら
いできそうだ。巫女様や耀司さん、弐式家で世話にな
っている使用人にも配れそうだ。
 柚は凝ったトリュフチョコレートを作り、ココアパ
ウダーをまぶしている。チョコレートを作るのなんて
初めてだが、日頃の感謝を皆に伝えられるのは悪くな
い。家族の分もとっておいて、家に帰った時渡せれば
いい。そんなことを思い描きながら、慶次はチョコレ
ート作りに勤しんだ。



 慶次の作ったチョコレートは概ね好評だった。柚の
おかげでラッピングも綺麗にできたし、使用人の人た
ちは皆喜んでいた。いかにも義理という感じだが、却
ってそれがもらうほうも気軽でよかったようだ。
「有生、ほらお前の分」
 有生の離れに行き、こたつで熱燗を飲んでいた有生
にも一つ手渡した。
 欲しいと言っていたし、喜んでくれると思っていた
のだが、チョコレートを見た有生はひどく不機嫌だっ
た。
「俺、いらない」
 つんとそっぽを向いて、有生がお猪口を傾ける。
「何だよ、朝は欲しいって言ってたのに。変な奴」
 有生のきまぐれは今に始まったことではないが、拒
否されてムッとした。寒かったのでこたつに足を入れ、
ラッピングしてあるチョコレートを手に取る。
「慶ちゃんこそ、何で俺と使用人のチョコが一緒なわ
け」
 有生にじっとりと睨まれて、慶次は目を丸くした。
どうやら有生はもっと豪華なチョコを期待していたら
しい。
「使用人の皆にはお世話になってるじゃん。美味しい
ご飯もらってるし、長々といても嫌な顔一つしないし」
「はぁ? 世話なら、俺が一番してますけど?」
 不機嫌そうに身を乗り出されて、慶次はムッとして
眉根を寄せた。
「お前のは世話じゃねーだろ。俺が帰りたいって言っ
ても返してくんねーし、むしろ俺のほうがお前からも
らいたいくらいだわ」
 せっかくあげようと思ったものを拒否されて、腹が
立ってきた。こんな嫌な奴に渡すより、自分で食べた
方がいい。そう思い、慶次はラッピングの包みを解い
た。
「いーよ、自分で食べるから」
 中から銀紙で包まれた四粒のチョコレートが出てく
る。慶次はその一粒を口に含んだ。チョコを溶かして
型に入れて冷やしただけの代物だが、自分で作ったの
で美味しく感じる。
「あまーい」
 有生に見せつけるように食べていると、いきなり有
生がこたつから出て、慶次を押し倒してきた。
「んぐう……っ」
 畳に押しつけられたと思う間もなく、有生が慶次の
唇に被りついてくる。びっくりして口を開けると、有
生の舌が入ってきて、口の中の食べかけのチョコレー
トを奪おうとしてきた。
「ん……っ、む……っ」
 食べかけのものをとられるというのが無性に恥ずか
しくて、慶次は有生と重なりながら抵抗した。舌で有
生の舌を押し返そうとすると、焦れたように指先を口
に突っ込まれ、食べかけのチョコレートを奪われる。
「な……っ、な、何する……っ」
 互いの口がチョコまみれになって、慶次は目を白黒
させた。食べかけのチョコレートを有生に食べられて
しまった。実はそんなに食べたかったのか。だったら
まだ残っていたのに。
「クソ甘い」
 まずそうに有生が口元を拭う。奪っておいて、その
態度。ていうか、食べかけをとるなんて……変態すぎ
てついていけない。
『これはご主人たまが悪いですぅ』
 腹の中にいた子狸が、言いにくそうにぽそっと喋る。
「え? 俺が悪いの? なんで?」
 理解できないし、納得できない。すごく理不尽に思
えるし、有生の機嫌が直っていないのも釈然としない。
「とりあえず……ほら」
 訳が分からないが、いらないと言いつつ有生がチョ
コを欲しがっているのは分かった。残りの一粒の銀紙
を取って差し出すと、有生が黙って口を開ける。その
口の中にチョコを放り込むと、黙って咀嚼する。
 突然、気づいた。
 バレンタインといえば、女の子からチョコをもらう
日だ。だが、有生のこの性格からすると、学生時代に
チョコレートがもらえなかった可能性がある。見た目
はかっこよくても、人嫌いの有生だ。だからその嫌な
記憶が今もあるのではないだろうか。それで素直にあ
りがとうと言えなかったのでは……。
 慶次は同情気味に有生を見つめた。自分も決してモ
テるほうではなかったが、それなりにもらってきた。
今は可哀想な有生のために大人になって、チョコの美
味しさを伝える時なのではないだろうか。
「えっと……ハッピーバレンタイン?」
 慶次はにこっと笑った。
「……何かキモイこと考えてるでしょ」
 有生が薄気味悪そうに身を引く。慶次は笑みを絶や
さなかった。俺は全部分かってるぜと親指を立て、残
りのチョコレートを二人で仲よく分け合った。


           ハッピーエンド

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